Gaspard Muller


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幼い頃、目付きが悪くて上背があるのに臆病な僕は、なかなか友達ができず、年の離れた姉の後ろをいつも追いかけていた。

彼女はそんな弟を心配しながら、唯一の友達として嫌な顔をせず相手をしてくれた。僕は優しい姉が大好きだった。

読書家な彼女はしばしば自分のお気に入りのおとぎ話を読み聞かせてくれた。

 

妖精、ドラゴン、不思議な魔法、伝説の剣、隠された財宝、そして美しいお城。本の中に存在する世界は僕を深く魅了した。

物語の世界だけでは物足りない時は、姉と二人で物語の世界を空想した。

空想の中では、僕と姉は世界を股にかける大冒険家となって様々なものを見てまわった。

そんな当時の僕の夢は「異世界の冒険譚を姉に聞かせること」

姉は楽しみにしてるね。一人で行けるのかな。と笑っていた。

 

そんな姉は、今は結婚して遠い異国、イギリスへ行ってしまった。

僕も大人になり昔ほど本を読みながら空想の世界に浸ることも少なくなった。

姉とは時々連絡は取り合っているものの、物理的な距離も忙しさもあってしばらく直接会っていない。

大人になってからは月日が経てば経つほど、きっかけもなく会うのはなんとなく気恥ずかしくなってしまった。

ホテル・カサブランカを知ったのは、そんな時だった。

 

何気なく開いた観光情報誌で見かけた写真。

目に入った瞬間、心臓を撃ち抜かれたような気がした。

 

____シェブラン城だ。

 

姉によく読み聞かせてもらった物語『幸運な冒険』に登場する白亜の城だ。本の中ではモノクロの挿絵しか存在しなかったが、美しい白壁に気品のある佇まいは間違いなくシェブラン城だった。

物語の中にしかなかったものが現実にあった。

シェブラン城、もといホテル・カサブランカ。

この冬、100周年記念で抽選10名限定半貸切予約の受付をするらしい。

場所は姉のいる、イギリス。実はイギリスには姉の結婚式以来行ったことがない。ほぼ見知らぬ場所といっても間違いない。

 

運命を感じた。

きっかけは突然訪れる、まさに“これ”だ。

 

すぐに姉に連絡すると、彼女もカサブランカをまさにシェブラン城と評し、おとぎ話のお城が現実に在ることを喜んだ。

はしゃいだ姉の様子で、子供の頃の懐かしい記憶を思い出した。

どうしても二人分の予約がとりたくて、応募ハガキを何枚も書いてしまった。迷惑になってないことを祈りたい。

抽選を当てるために必死だった。

 

結果はほどなくして届いたが、残念ながら二人分の予約はとれなかった。

限定10名という少人数なのだから仕方ないのかもしれない。

どちらが行くか、姉は即決だった。小さい頃の夢が叶う時だよと。

他愛もない子供の夢を持ち出されるとは思わず、照れて二の句が告げない間に話をまとめられてしまった。

今回の滞在で良かったら平常時にまた二人で予約すればいいと言葉で締めて。

姉の厚意のままに、僕はカサブランカ行きを決めた。

知らない異国、そして白亜の城。

まさに冒険の一頁のような組み合わせだ。

ホテルでは写真をいっぱい撮ろう。絵はがきがあればホテルから送るのもいいな。

イベントが終わったらその足で、姉の元へ行く予定だ。

 

大好きな姉へ、冒険譚を語りに。

 

ギャスパル 意味:宝物を運ぶ人