✧ Side Benelope ✧
~ Year 1 ~
あの子の子孫。少し面白そうな、見目の良い人がホテルにやってきた。なんだか素敵。
~ Year 2 ~
もう少し近くから見てみようかな。ちょっかいをかけに行こうとしたらデイジーが怖い顔をしてきた。悪魔らしくていい顔ね。
~ Year 3 ~
気紛れに宿泊客に扮してチェックイン、少しお喋りを。スマートな振る舞いと笑顔に思わずドキドキした。
~ Year 4 ~
もっと彼を近くで感じてみたい。このときめきは恋なのか、もっと知りたい。
どんな姿がいいかな。可愛い?美人?
貴方の好みは、どんな子?
「ベネロペちゃんはいつも一生懸命だからさ、もーっと気軽に頼ってよ。俺にも、頑張ってる君のことフォローさせて」
あれは忘れもしない、入って暫く経つ晩夏の日の午後でした。
その日は、可愛らしい花嫁さんを祝福するガーデンパーティーがありました。色とりどりたくさんのお花を飾って、友人や家族からお祝いの言葉をたくさん浴びて、幸せそうに溢れる笑顔を愛しい人に向ける花嫁さんがとても素敵だったのを覚えてます。
無事にパーティーも終わって、その片付けをしていたんです。
そこでちょっとだけ、アイザックに良いところを見せたくて……。
張り切って両手に空のお皿を何枚も重ねて、いざ、足を踏み出したら……大失敗でした。ふらついて、ついバランスを崩してしまったんです。
久々の勤務だったし、多分この体躯に慣れるのに少し時間がかかっちゃったのかな。
でもね「もうダメだ」って思った瞬間、後ろから突然アイザックがまるでタンゴを踊るみたいに、脚で私をクルッて支えてくれたんです!
そしてそのまま、曲芸みたいに両手で空中に舞ったお皿をそのままキャッチしたの!本当に凄くて、思わずビックリしちゃった。
まるで王子様……ううん、騎士かな。ふふ、まるでナイトみたいでした。
それに、あの言葉で私……彼、アイザックへと恋に落ちちゃったんです。
もう!乙女にあの笑顔と言葉はズルいですよね!
胸が苦しくなるほど、ときめいちゃいました♡
~ Year 5 ~
彼はとっても素敵で格好良くて、愛が大きくて大好き。誰にも内緒にしている熱い心にも、ドキドキしちゃう。
アイザックにもっと触れたい。彼と恋がしたい。
どんな風にしたら、貴方の目に可愛く映るかな?
そうなんですよー……彼と恋人になるのは少し大変でした……。
悪魔として魅了するなんて簡単です。少し触れるだけで、誰も彼も簡単に恋をするんですから。
だけど、それじゃ意味がないんです。
アイザックと、私はベネロペとして恋を成就させたい。
どんな風に笑えば魅力的に見える?髪型は?視線は?
やり過ぎず引くタイミングも心得て、でもしっかりとあざといくらい可愛く。
彼に少しでも可愛いと思われたい。
いい子だなって、思って欲しい。
ですが!
恋する乙女は勿論、見た目だけではいけません!
少し強引なくらいに、たくさんお喋りをしてたくさんアイザックにアタックをしました。
でも、彼こんなに可愛く振る舞う私を簡単に躱しちゃうんですよ。
だから私、もーっとアイザックに夢中になっちゃいました。
「なあ、ベネロペ。俺は君が思ってるような男じゃないと思うけど」
何度目か、数え切れぬアタックの後少し困ったようにアイザックが笑って言いました。
「恋人になったとしても言えないような隠し事もあるし、案外悪い男だぞー?」
少し脅かすように悪戯に悪い顔をして、私を窘めたの。
彼の秘密、その都合で恋人を作らない。
それに守るべきこの国、守るべきこの国に住まう人間をきっと自分の嘘で傷つけてしまう。
アイザックが自分自身から守るために私を遠ざけようとするその姿が、とても愛しくて。
「自分の秘密を隠し通すために、嘘だって吐くこともあると思います。でもアイザックさんは、誰も泣かせてない、悲しませてないです。だから、アイザックさんは悪い男なんかじゃないですよ」
予想外の返しをくらったみたいで、目を瞬かせる格好良いのに可愛い顔がまだ目に焼きついてます。
お見せできないのが残念だけど、私だけの愛しい隠し事です。
「それに、誰にだって隠し事はあります。私にも隠し事はありますし!ほら、私も悪い女ですよ?大丈夫、お似合いです!」
「へ……あー、どうしよう……困ったなー。そんな風に言われちゃうと、もう躱す理由がなくなるんだけど」
恋する乙女と狩人は隙を見逃さないんです。
私はここが一番のチャンスだと思って、そのまま押しきりました!
「じゃあ、このまま悪い女に騙されてください♡」
最上級に可愛い笑顔と、悪戯な声色で。
この言葉にアイザックは観念したように笑ってくれたんですけど、きっと彼にとっての損得とか色々な都合を考えて私を受け入れてくれたんでしょうね。
ふふ、そんな知力に長けてる思慮深いところも素敵でしょう?
「ふ、あはははっ!悪女はそんな風にしないって。はぁー……笑い過ぎて腹痛いわ……」
「えへへ、では!改めて、よろしくお願いしますね、アイザックさん!」
「あー……はぁ……参った、降参する。こんなに粘り強いとは思わなかったよ」
アイザックは呆れたように笑うと右手を差し出してずっと私が聞きたかった言葉を、言ってくれました。
「こちらこそ恋人としてよろしく、ベネロペ」
ああ、思い出すだけで胸が高鳴って恋に浮かれてしまいそう。
……あら?不思議な事をお聞きになるんですね。
好きな人のことは全部知りたいし、全部知っていたいものです。
だから全部全部全部、見てますよ♡
あ、でもその後のあの子……デイジーったら、とっても面白かったんですよ。
「さっきの話、私の可愛い甥っ子に嘘はつかないで頂戴」
上機嫌でエントランスの掃除をしていたら、厳しい目をしたデイジーが咎めるように耳打ちしてきたんです。
「嘘?彼に聞かれたことには答えるけど、私の隠し事は聞かれなかったから答えなかっただけです、お姉様……うーん、この場合だと……叔母様♡」
「夏場には冷えてちょうどいい呼び方ね」
必死になって、本当に可愛らしいですよね。
でもそんなものじゃ、一度膨らんだ恋心は止められないです。
~ Year 6 ~
ホテルを明るく照らす光が自分のずっと上の方、引き出しをはめ込んだように暗闇の中に差し込まれてる。私の周りは真っ暗で、冷たく無機質な機械の天井を背中に感じる。
切なく初々しい恋に触れて思わずときめき過ぎちゃった。あーあ、もう少し見てたかったなあ……。
でもあの抗いながらも恋に飲み込まれそうになる顔、素敵だったな。
「……おい!誰かいるのか!!」
ぼんやりとそんなことを考えていたら、突然下からアイザックの声が響いてきました。
やっぱり、私を一番最初に見つけてくれたのは貴方だった。
「ごめん」
ああ……ダメ。私の胸を熱くさせてくれる人、いつでも私に恋をさせてくれる人。
私の、大好きな愛しいラヴァー。
いつか夢物語のように話したかな、私ね、ウェディングドレスを着たいの。
純白にチュールやレースをふんだんにあしらって、薔薇の飾りを胸元に。プリンセスラインが可愛いかな。
ベールは、ミドル。レース越しに見るアイザックもきっと、素敵。
2人でチャペルを歩くそんな未来も素敵だな、2人でなら良いなって。
ただベネロペとして、幸せな花嫁になるのも……本当にそう思ってた。
だけど、ねえ……アイザック。
生きてる時と同じように、私の頬に優しく触れて散らばった髪をそっと払ってくれて。
骸になった私を優しく抱きかかえて、エレベーターから降ろしてくれて。
自分が守るべき人間を守れなかった罪悪感と憤りと、それにほんの少しだけ……。
私に、後悔してしまったでしょう?
ほんの少しだけ、その心に愛しい者を亡くした苦しみと後悔を感じてくれたでしょう?
恋と呼ぶにはあまりに儚い一滴だとしても、貴方からの心なら私にはそれで充分だった。
愛しい愛しい人の肉に、その心臓に、ほんの一滴恋が混ざったのを感じたら……堪らなく食べたくなっちゃった。
まあ!2人きりのウェディング、ご覧になってたんですね!
そうです。とびきり素敵なウェディングドレスを着て、彼を迎えに行ったんです!
ふふふ、アイザックったらドレスを着た私を見て、天使って言ったんです。
本当に最後の最後まで、どこまでも私をときめかせてくれる最高の恋人です。
はい、これで私と彼の恋のお話はおしまいです。
あ、でも素敵な恋の物語なんだから、そうですね……
2人は一つになって、ずっとずっと幸せに一緒にいられました。めでたしめでたし。
かな。
ふふっ、とびきりのハッピーエンドです!
2025,04/01. “ Happy Birthday Benelope❤︎ ”
執筆:アル