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古くから続くこのホテルカサブランカは、
皆様のご愛顧により無事100周年を迎えることができました。

お客様への日頃の感謝の気持を込めまして、
抽選10名様限定の半貸切状態で
この7日間をお楽しみ頂こうと考えております。



 『ようこそ、ホテルカサブランカへ』



『本日は当ホテルの100周年という善き日にお越しくださり、誠にありがとうございます。
私、支配人のオーウェンと申します』

『お待ちしておりました、ホワイト様。
では、こちらにチェックインのサインを』


純白の支配人、ミステリアスなフロント__

なんだか物語の主人公にでもなったみたいだ


『私、ダニエル・コットンキャンディーと申します。
お気軽にダニーって呼んでください』

『よかったら僕のこともスノーって呼んでよ。
できたら仲良くなりたいからさ』

『かしこまりました、スノー様!』


ついに、ホテルカサブランカに来たんだ


『二人は、この景色を見たんだね……』

『俺は……ヴェルナー・ハイゼンベルク。
名前以外に記憶がないので、ご期待に添えるような話はできない』


招待されていない11人目の幸運な客人__


『それにしても、随分と個性的な人物が集まったものねぇ』


画家、探偵、記者、実業家、理髪師……老若男女を隔てず
クリスマスのテーブルでグラスの音が鳴る__



ホテルに響く絹を裂くようなに悲鳴



『……あれは、本物の死体だろうな』

『オ、オーウェン様が……』


この中に犯人がいるかもしれない


『ギャスパル君!』

『嫌です!無理です!』

『今でも大好きですよ?だからとても悲しいです』

『おとうさまはどこ?』


あの方への貢ぎ物として相応しい姿に


『隠れる必要はないですよ』


ただならぬ様子に、全員の視線がアビゲイルに集中する


『ウ、ウズリフさん!
ダニエル君が……!ダニエル君がぁ……』


霧が都を隠すように、白が全てを隠し消す___


『あら、騎士様としてお願いしたつもりですのよ。
合理性とも言いますけども』

『ナジー嬢?』

『新調したんですよ、似合うでしょう?
まあ、そこのご婦人には見えないでしょうけどね』


見せびらかすように金髪を翻した


『お客様、どうされたのでしょうか?被る?馴染む?
まるでご自身の毛髪が一切ないような仰りようですね』

『動いてはいけません。
私が合図をしたら、扉まで走ってください』

『いや、いや……いやいやいや__ァァァアアアア!!』


罪人を焼いたオレンジの炎を吐き出す焼却炉、
白い大地に投げ出された真っ黒に焼け焦げた人間だったもの
踊り出す者、暗闇に潜む者__


『大丈夫ですよ!お客様を遭難させることなんかありませんって』

『女性は怖いな』

『お嬢様も恋をなさってるんですね』


エレノア様はなにを占いたいですか?
黄色い薔薇は、エレノアの心そのものに思えた


『なんで』


告げることを決して許されなくなった罪を抱える私から
離れて、あなたはどこに飛んでいくつもりなの


『自分がマジでいいと思ったモンを描くのがいーんじゃん。
案外俺ら似たタイプなのかもねン♪』

俺はエレノアの為に、その為にいるんだ

『羨ましくもない、
ただお前みたいな自由が物珍しかっただけだ』

『やっぱさ俺に惹かれるやつって死んでく運命?みたいなやつあんの?』


行き交う秘めた心__


『……ごめん皆、守れなくて』

『……両親も、もういないです』

『俺もだから別に珍しいことじゃないんじゃない』


雪の精のように白く表情のない顔から
吐き出される氷のように冷たい声


『クリスマス、囲ませてやれなくてごめんな』


悲鳴も怨嗟も美しい花弁を咲き誇らせる
糧にするように___


『犯人はまだ、捕まって……ない……』

『探偵はその時が来るまで語り始めるものではないのですが、
最後まで辿り着かぬ思考の途中を皆様にお聞かせしましょう』


翠の瞳が……オーナーと同じ翡翠の瞳で、
目が、合ったんです


『え……?』

『逃げろ!!!』

『大丈夫ですよ。ちゃんと綺麗にして捧げてあげます』

『あれ……?俺もう天国着いた感じかな。
それとも天使のお迎え、とか?』


ドレスがまるで紅で化粧をした
白薔薇のように広がっていく


『ギャスパル、なにかお話をして!』

『お話?』

『本物のシェブラン城を見たことある?』


視線をそのままにフレデリカが尋ねる


絡め取られる惨劇から奇跡を見つけられるのか___


『考えろ、考えろ考えろ考えろ考えろ……!』


俺はまた、逃げるのか……
大事なことから、俺の罪から


『ナジー、こんなことしか言えなくてすまない。どうか、気をつけて』


不可解なものだらけでなにも分からなくても、
これだけは分かる


今ここでスヴェンさんを一人にしてはいけない







『まさか、なぜ君が……』

『ああ……挨拶がまだでした。お初にお目にかかる、
私は当ホテル前オーナー、ステファノ・オーウェン』


俺は、俺の責任を果たしてから地獄に行くよ


『ようこそ、幸運なお客様』



そして誰もいなくなるのか___



ただひたすらに真実を求め、
状況が語る声なき声を聞き言葉を語る。

それに揺るぎない絶対的な自信を持つ強い言葉は、


時には思いがけない人を動かすには十分なものだった。



「わ、わたし……私、見たんです!!」




___ブツン。


霧が都を隠すように、白が全てを隠し消す。
悲鳴も怨嗟も
美しい花弁を咲き誇らせる糧にするように___

絡め取られる惨劇から奇跡を見つけられるのか。
そして誰もいなくなるのか。



BHC(British Hotel Casablanca)放送
「Ms.Abigail the witness」
邦題「アビゲイルさんは見た」



 シャンデリアが眩く照らす白いホール。
 その真ん中やや後方気味に、品良くホテルの全体と調和したチェックインカウンターが構えている。

 年季を歴史として美しく纏った艷のあるオーク材、カウンターに設えらた持ち手に百合を模した紋章を透かし彫りに施した金のベル。背面にも同じオーク材で作られた棚に几帳面に帳簿を、その横には客室のナンバープレートを冠して吊り下げられた古く大振りな客室の鍵が納められている。

 まるでその一空間だけがたっぷりとした雰囲気のアンティークショップとして存在しているようにも見える。
 だがここは、ホテルカサブランカ。そしてこのホテルを訪れた者が初めに足を踏み入れ瞳に映す、言わばホテルの顔の様なエントランス。

 そしてそのエントランスの真ん中やや後方気味、カウンターの中。
 目元は伺えないがそれでも充分見えるほど顔に疲労感を漂わせ、クラシカルなメイド服に身を包んだ女性が深い溜め息を吐いた。

 彼女の名前はアビゲイル・ホール。

「(なんでこんなところに……デイジーさん早く戻ってこないかな……)」

 束の間の主人公であり、今すぐにフロントを辞退したい、ここホテルカサブランカで働くホテルメイドだ。

 極度の人見知りである彼女は平時は宿泊客と遭遇しないように館内を綺麗に清掃しベットメイクをし客室を整えて清潔に美しく保ち、特別な空間で訪れた者を迎える事を役割としている。

 本来は、そのはずだった。

 ホテルの記念となる日に突如殺人事件が起こり、吹雪で外界とは連絡もつかなくなり……一人、また一人と宿泊客も従業員も、物言わぬ姿で発見されていった。

 そして今。
 同じく従業員のデイジーにフロントを託され、本来であればこの様な場所に躍り出ることなど決してないアビゲイルは緊急時に断ることもできず、不安に肩を重くしカウンターの中で任されたことを全うしようと奮起したりしていなかったりをしている。


「(う、うぅぅぅ……部屋に戻りたい。部屋じゃなくてもいいから、とにかくここから離れたい)」

いくら殺人鬼が死んだとは言え、正直怖いとかこんな目立つ場所とか、そう言うのもあるけど。
けど……今問題なのはそういうのじゃなくて、そうじゃなくて……。

「(いやダメだ、アビゲイル。デイジーさんに任されたんだから、私がここで踏ん張らないと)」

 ホテルスタッフ一同、と言っても館内には4人しかいないくなって。
 ショックと恐怖で震える己の身も勿論、お客様がいる以上少しでも職務を、不測の事態に備えてお客様を守らないと。

 私も、一カサブランカの従業員として。

 そう。
 だから私がいることに気がつかれずに行われているスキャンダラスな話も。
 このカサブランカの従業員たる私なら空気と化して乗り越えられるはず。きっと、多分。
 アビゲイルならできる!頑張れ……!




 アビゲイルは唇をキュッと結ぶと、毛先1mmたりとも動かさない決意を感じるような細心の注意でゆっくり、衣擦れの音さえ漏らさぬようにそれはそれはゆっくりと膝を丸めカウンターの中に消えていった。

 支給されてる革靴の踵が艷やかな大理石にタップしないようそのままじっと、完璧と言えるほど息と気配を殺していると、アビゲイルにより守られている静寂を消すようにエントランスホールに二人の男性の声が僅かにヒートアップするように声量を上げて響く。

 カウンターの後方大階段の辺りから反響する声が、なにも聞こえぬを決めひたすら大理石のマーブル模様を一人迷路のように目で辿り必死に意識を逃避行させているアビゲイルの耳に詳細を流し込んでくる。

「(今夜部屋に戻ったらビールのケース注文しなきゃ、ドジャー様?!ドラマの録画、録画も忘れず、いつからそんな関係に?!)」

 俯くアビゲイルの前髪が重力に従い真っすぐに地面へと流れ、伺える瞳は最早暴力のようにあまりにも過多な情報に白黒とし整理しきれず瞬きを幾度も繰り返すことしかできずにいる。

「(ちょっとちょっとちょっと……なんでこの二人が修羅場なの!?助けてデイジーさん……!)」

 願いは星にも届かず、アビゲイルの焦りをよそに予想外の修羅場は外の吹雪と対比するようにさらに熱を帯びていく。

「(え、ええぇぇぇ!!!兄妹!?禁断?禁断なの!?)」

 無言をなんとか守り通し驚愕の話に百面相しながらも、その驚きで漏れる息を止めるようにアビゲイルは思わず口元を両手で押さえた。

「(ドジャー様に恋……?使用人を貫き妹であるお嬢様から恋慕されてるお兄様が……?そっちも禁断なんかい!!)」

 唐突に響く声が止み、再びのエントランスホールに静寂が訪れた。

「(してる。これ絶対チューしてる。禁断……いや、今の時代これもマジョリティだけどさ。でも、ドジャー様相手に込み入ってるスキアー様って禁断感強くない?ドラマなの?)」

 暫しの静寂の後、階段を登るような微かな足音がし百面相とにらめっこを同時にしていた顔を上げ、恐る恐るアビゲイルは立ち上がった。
 カウンターからこっそりと頭を出し、慎重に後方を伺うと確かに修羅場を繰り広げていた2人は何処かへ揃って消えたようだった。

 何処へ消えたのだろうか、と思わず邪推しそうになる頬を両手で軽くパチンと叩くと、アビゲイルは姿勢を正し改めて正面に向き直した。

「お客様にも様々な事情があるし、例え殺人事件が起きようとなんだか……色々あるんだろうし、詮索は無用よアビゲイル!」

 だが気合を入れた顔はすぐに複雑そうな表情に入れ替わり、上半身ごと悩むように少し斜めに傾くと軽い苦悩の声とともに溜め息を吐き、少し隙間のあいた前髪を掌で押さえた。


「なんか、最近よくなにかと見ちゃい過ぎじゃない……?しかもどれも人に話せないし」


 アビゲイルさんは今日も見てしまったようだ。



2025.07,12. ‘‘happy Birthday Abigail!’’
執筆:アル様