シェフの解説と共に

最後の一皿まで

お楽しみください

 

 

MENU


 

~ 食前酒 ~

 

1品目 スヴェン&ナジー

      

【ブルーモーメント】

 

グラスの中で東雲に冥い青が層を作りファウストが薄明を留めたかの様な魔法の一杯

喉に引っ掛かるレモンの甘ったるさと苦味、鼻に抜けて行く艷やかな品の良さがとても相性がよく思わず2杯目を頼みたくなってしまう

飲み終わった後も不思議と嫌な酔い方をせず、良い音楽に聴き惚れた時と似た余韻につい浸ってしまった 

 

 

お料理のご説明

明けの明星を意味するモルゲンシュテルンの苗字を持つスヴェン様と、盲目という意味でも配色的にも深く冥い夜の様な青が連想出来るナジー様を同じグラスに仕上げました。

夜から朝に静かに変わっていく刹那、夜明け前の光さす時間「ブルーモーメント」を表現したカクテルから着想を得た食前酒でございます。

このお二人は一緒に眠られるのもありますし、古い友人の悪魔が見せる素敵な夢のような最期の中でナジー様の奏でるピアノをスヴェン様が聞かれております。

お客様はゲーテ著のファウストはご存知でしょうか?

かいつまみますと、人生を学問に費やしたが何も得られず絶望しているファウストの元にメフィストフェレスと名乗る悪魔がやってきて「人生色々やってみ!楽しいで〜。ほな色々な人生を経験させたるわ!ただし満足し人生最高の瞬間に、ここに留まりたいと思ったらそこで終了。お前の魂もらうやで」と契約を持ちかけ、これにファウストは了承し……。と言うお話でございます。後々、ファウストに人生最高の瞬間が訪れそこで契約が果たされるのですが……その時の言葉は有名でして『時よ止まれ、そなたは美しい』

そんなファウストが美しい二人の最期の時を永遠に留めたいと思うような、薄明を留めたかの様な魔法の一杯。味わいも、大人で品がある二人らしく仕上がっております。

 

 

〜 スープ ~

 

2品目 ギャスパル

 

【フロマージュブランとまろやかなポタージュ】

 

少しもったりとした柔らかなポタージュの表面にはキラキラとした金と銀の粉が三日月の様に飾られ、2色のソースで白亜の城のドレッサージュが施されている

ミルク、蜂蜜、フロマージュ、素敵なものをふわふわにしたような、ひたすらに甘さと優しさだけの液体が匙にすくわれていく

一皿食べ終わる頃にはどこか夢心地な気分に 

 

 

お料理のご説明

優しい童話の世界に心ごと飲まれてしまったギャスパル様を白く甘いポタージュに仕立てました。

『ミルク、蜂蜜、フロマージュ、素敵なものをふわふわにしたような』こちらは、イギリス文学で有名なマザーグースからリズムを少々拝借致しました。マザーグース、子供のためのナーサリーライムは、小児科医の卵で幻想的な物語を愛するギャスパル様ににピッタリかと。

こちらのポタージュで使われているフロマージュブランも白いふわふわとしたチーズでして、シェブラン城と色や語尾が同じく相性のいい食材でございます。

ギャスパル様の眠られ方も食前酒のお二人と似ていて夢心地のままですので、この味わいもまた、ご自分が死んだことに気づいてないままなのかなと思わせる……失礼致しました。少々意味深でしたね。

 

 

~ 前菜 ~

 

3品目 クレア

 

【真実のルイベ】

 

ジャックフロストのレースを纏った赤い薄切りの肉を花弁の様に盛り付けたルイベ

マグパイを模った白黒のジュレが一羽添えられている

口に入れると舌の温度で程よく溶けていき強い旨みが広がる

ただ使われているスパイスがなんだか分からず

知りたくなってきた

 

 

お料理のご説明

雪の中ご自身の強い信念を持ち進み氷のようになられたクレア様を冷たい前菜としてお皿に飾らせていただきました。

メニュー名もクレア様のご職業から真実の口をオマージュ致しました。

冬の妖精と言えば様々ですが、代表的なところでジャックフロストと言う悪戯な芸術家がおります。悪戯に凍える冬の息を吹きかけ、窓に描かれるレースの様な霜は彼の作品とも言われています。クレア様もそんなジャックフロストに会ってしまわれたのでしょうね。

お客様、よろしければお皿に施された素晴らしい飾りについても、ご説明してよろしいでしょうか?

 

ありがとうございます。では私のお喋りに少々お付き合いくださいませ。

このマグパイは英国ではよく見かける鳥でして、日本名にしますとカササギでございますね。

おしゃべりな女性をマグパイのようだ、と少し皮肉を込めてこの鳥に揶揄したりするそうです。身近故でしょう、マグパイに関連した話はまだございまして、英国ではマグパイを一羽見つけるとすぐに二羽目を探します。

これは一羽見つけるとは悲しみや不運、二羽見つけると幸運。と言う昔から続く迷信のようなものがあるからだそうです。

クレア様のお側には……二羽目は見つけられなかったようですね。

……これから先は、ここだけの秘密でございます。

英国では少々お困りになられる様なジャーナリストに対して『記者の口を凍らせる』と言う事もありまして、優秀なクレア様でしたから白く咲く100年の花の事を深く知りすぎてしまったのでしょうね。

それと聞いたところによりますと、クレア様はご立腹になられるとルイベ発祥の地、北海道の訛りが出ることがあるらしいですよ。

お後はですね……いけません、少々話し過ぎてしまいました。私の口も凍らされてしまう前に、次のお料理にいきましょう。

 

ルイベに使われているスパイスですか?

それは、秘密です。

 

~ 前菜 ~

 

4品目 エレノア&スキアー

 

【恋する乙女の秘密と付き従うテリーヌ】

 

一目見れば華やかで美しい、白い皿をキャンパスとした芸術品

積み重なり光彩を描く、オーロラのような角度によって色の変わる美しいテリーヌにナイフを入れるのはいけないことのような気がする

口に運ぶとハーブやほのかな花の香りに口に残る少し嫌な辛味

 

 

 

 

お料理のご説明

恋の名の元罪重ねてしまった、向き合っているようで分かり合えなかった二つの心をお皿の上で詰み重ね、合わせ、一つにした美しいテリーヌでございます。

こちら調理方法が材料を型に敷き詰めて上からゼリーを流すものですので、オフィーリアの様な水中で美しい最期を迎えたエレノア様に相応しく、花開くことなくともキャンパスの様に白い皿をソースやエレノア様が花占いに使われていました黄色い花で飾り、スキアー様と永遠に一緒になってもらえたらと、心をこめて形にもこだわったシェフ自慢の一品です。

どちらかなのかお二人なのかは分かりませんが、最期に抱いていた思いがよほどお強かったのでしょうか。水を飲んでも消えない仄かな辛味がなにをしても影のように残ってしまうので、逆にそれを引き立てるためにハーブや花々をふんだんに使い仕上げました。お口に合えば幸いなのですが。

失礼致しました、少々辛いですか……では、お口直しに温かい紅茶をお持ち致しますね。

 

実はこちらおすすめの召し上がり方がありまして、金のナイフで切り分けますと深みがましてより美味しくお楽しみいただけます。こちらにありますので、お客様も是非、金のナイフを入れてみはいかがでしょう?

 

ああ、申し訳ございません。お二人の青い星のように美しい瞳はウズリフ様から他のお客様にはお出ししないようにと、申し付けられておりましてお出しできず……。

ですが、大事なものを焼きつけた美しい瞳はそれはそれは格別の、誰にも渡したくない味かと思います。

 

~ メイン ~

 

5品目 アイザック

 

【スパイスを効かせた仔犬のポワレ】

 

芳しい茶色と赤の香辛料の山を掻き分けると下には弾力のある旨味の詰まった肉が隠されている

スパイスの香りが強いわりに親しみのある食べやすい味

 

 

 

 

お料理のご説明

アイザック様はベネロペ様からのとても熱いオーダーを頂戴いたしまして、皆様のお皿とベネロペ様の特別なお皿の二品でご提供させていただきます。

まずはポワレのご説明から失礼致します。

スパイは『モグラ』と隠語を使われる事があるのですが、こちらもそれに則りまして土に見立てた特製の茶と赤のスパイスをよく鍛えられ弾力のある肉の上から少々隠れる様にふりかけてあります。

ですが、アイザック様が本来のお持ちのものなのでしょうね。とてもスパイスの香りが強くとも、親しみのある召し上がりやすい味になって仕上がっております。

 

では、お次はあちらのお皿にありますコンポートをご説明致します。

 

~ ベネロペ専用デザート ~

 

ベネロペ専用の一品

 

【アイザックのコンポート】

 

シナモンとナツメグをたっぷり、レモンを効かせた甘い白ワインで蕩けそうなほど煮込んだ真っ赤なハートのコンポート

二粒の白胡椒が甘さの中にピリリとアクセントをくわえている

熱いまま口に入れると体の中からうっとりとするような甘い熱が広がっていく心地良さ

思わず笑顔になってしまう

 

 

お料理のご説明

異例の二品、さらにコースのメインの最中のデザートですが……ベネロペ様が両手に大事に愛おしそうにアイザック様の心臓を持ってキッチンまでをお越しくださったので、その情熱に私共もつい気合いが入ってしまいました。

 

こちらに使われております、シナモン、ナツメグ、レモン、砂糖、白ワイン、胡椒二粒はアーサー王伝説に登場しますイゾルデと言う女性がトリスタンを落とす為に作った恋の媚薬の材料と言われています。それらを使い今回はアイザック様のハートを大胆に丸ごとそのまま甘いコンポートに仕立ててみました。

実際召し上がられたベネロペ様は、恋の甘い熱にうっとりとされていたのでアイザック様との恋は媚薬など使わなくても、乙女として十分楽しまれていたのでしょうか。

お客様もお召し上がりに……?申し訳ございません。ハートはお一つしかご用意がなく。ベネロペ様もお分けしたくないと丸ごとのお料理をご希望でしたので。

はたして乙女心は分かりませんが、お気に召したようで見事に完食されていました。恋っていいですね。

 

~ メイン ~

 

6品目 ジェシカ

 

【生贄羊のワイン煮込み 林檎ソースがけ】

 

皿から漂う陶酔するほどのワインの香り

真紅のソースに簡単にほぐれる羊の煮込みを口に運ぶと

豊かな旨味と舌にへばりつく芳醇なワインと林檎の香り

 

 

 

 

お料理のご説明

 

調理の際にオーナー自ら指定されましたオーナーがお好きな赤ワインで子羊を柔らかくなるまで煮込んだ至高の一品でございます。

とても従順な羊だったようですね。繊維の一本一本が柔らかくなるまであまり時間もかからず、すぐに鍋の中でソースへと溶け込んでしまいそうでした。

ジェシカ様のお好きな林檎もたっぷりとソースに使い、オーナーのお好きな芳醇なワインの香りと味わいに奥行きを出しております。

 

……ええ、こちらは子羊の肉です。

……はい、こちらは6品目です。6?いえまさか、ただの偶然でございましょう。

 

~ メイン ~

 

7品目 ヴェルナー

 

【時を止めた探偵のロースト】

 

幾度もマリネを繰り返したような濃い色味をしたステーキ

一見ウェルダンよりも僅かに焼き過ぎた様にも見えるがナイフをいれば抵抗なくスッと刃が通る

噛み締めると色味に反してなにか調味料を足し忘れたような、だがどこか懐かしいような味がする

空になった皿に、ナイフとフォークを静かに置いた

 

 

お料理のご説明

ご説明を……おや、最期の一服がお皿に残ってしまったようですね。失礼致します。

では、改めまして。幾度か記憶を新たにご宿泊頂いたヴェルナー様をマリネ液に幾晩か漬け込こみローストに致しました。

マリネ液にしっかりと漬け込んだ為お色は少々濃く見えるかと思うのですが、紅茶に入れるのがお好きとお伺いしたブランデーでフランベをし、火を通し過ぎないギリギリのラインで見事柔らかな仕上がりになっております。

調理の度に、塩なのか香辛料なのか、何かを入れ忘れてしまいまして……シェフとして不徳の致すところでございます。

ですが、その味が何故か少し懐かしく感じる。そんな心に寂しさや懐かしさを思い起こさせる不思議なお味をお楽しみいただければ幸いです。

 

では、お済みのお皿を下げさせていただきますね。

 

~ メイン ~

 

8品目 エルロック

 

【探偵の香草焼き 灰色の脳細胞を添えて】

 

炭酸に漬け込み柔らかくした肉にタイム、セージ、ラベンダー、ローズマリー伝統的なハーブをふんだんに練り込み、こんがりとローストした香草焼き

スコッチが香るとろりと濃厚でバターの効いたソースが食欲をそそり手が止まらなくなる

もう一切れ、ナイフを入れた

 

 

お料理のご説明

血抜きがよくされていましたので下処理はあまりせず炭酸水に漬け肉を柔らかくし、スコッチを使った絶品のソースをかけた一品でございます。

エルロック様の素晴らしい灰色の脳細胞とバターを合わせたも黄金色のソースは、どちらかにいらっしゃる豊かな教養聡明な頭脳をお持ちの博士が『脳はバターとハーブのソテーが美味』と仰っていましたので、そちらのレシピにスコッチを一回し、アレンジを効かせたものとなっております。

エルロック様はかの有名な名探偵ホームズ様の子孫とお伺い致しましたので、シャーロック・ホームズが好んで飲んでいたとされるスコッチのハイボールを調理の中に忍ばせてみました。

ローストの際の香草は、タイム、セージ、ラベンダー、ローズマリーの4種類。こちらは黒死病が流行していた時代に死神の鎌から逃れられると人々がこぞり作り使っていた『4人の盗賊のビネガー』に使われているハーブを使っております。

細やかではございますがエルロック様の再びの健闘を祈りこちらのハーブを。

 

お客様、お料理の推理はいかがだったでしょうか?ありがとうございます。そのように美味しそうにお召し上がり頂き、シェフ冥利に尽きます。

では、どうぞそのままもう一切れ、お召し上がりください。

 

~ メイン ~

 

9品目 コーデル

 

【カッペリーニのエスプーマ添え】

 

大きな皿にはチキンスープで作られた真っ白なエスプーマが美しく纏められた黄金のカッペリーニを隠すように盛られている

表面にはつややかな潤いがあり、パスタの下に隠されていたつるりとした卵黄をとき混ぜ一巻口に運ぶととても満足感のある濃厚な味がする

ティースプーンに揺蕩うブランデーをエスプーマにかけて溶かすと、また違う味わいが楽しめる

 

 

お料理のご説明

コーデル様のご希望でした金の髪を、イタリア語で天使の髪と言われる髪の毛の様に細いパスタ、カッペリーニにて仕立てさせて頂きました。そのカッペリーニを美しく巻きつけ少し塩気を効かせたチキンスープを霧のようなエスプーマにし被せ、中央に卵黄を乗せた黄金のパスタでございます。

 

この英国において切り裂き、と聞きますと『切り裂きジャック』ジャック・ザ・リッパーを思い浮かべるお客様もいらっしゃるのではないでしょうか。コーデル様の切り裂き……から、連想してこちらの霧のようなエスプーマ添えになっております。

古今東西様々な美がありますが、ヨーロッパでは神話の頃より『美しい金髪』が美の定義の一つになっています。カッペリーニの金に卵黄を絡ませ、さらに艷やかな金髪にしていただくとコーデル様もきっとお気に召してくださるかと。

こちらのスプーンですか?こちらのティースプーンにはブランデーが入っております。

19世紀のトリートメント方法として卵黄とブランデーを混ぜたものがありますので、トリートメントが得意なコーデル様にプロには及びませんがトリートメントを楽しんで頂こうと思いまして。

石鹸の成り立ちに、その昔生贄に捧げていた羊の脂が地中で冷えて固まったものから石鹸が始まったと言うお話もあります。この一皿でお料理によるシャンプーとトリートメントとでも申しましょうか。ちょっとした遊び心ですが、少し悪辣が過ぎたでしょうか。

 

とてもよくお似合いの黄金の髪に、お好みでブランデーをかけますと遊び心だけでなく、霧が晴れてまた違った味わいをお楽しみ頂けます。

 

~ メイン ~

10品目 スノー&コフィン

 

【悪魔も顰めるフロッグインアボグ】

 

1つの血とミンスミートをブレンドした真っ黒なブラッドソーセージをプディングに沈めた冷たいトードインザホール

温かい素朴な見た目といい匂いに釣られてプディングを齧るとレバーをより濃厚にしたようなねっとりとした味が執着に広がる。冷たくなければ食べやすかったのかもしれない

プディングを持ち上げると皿に絵付けされた待雪草が食べた者の次の年の幸運を祈っていた

 

お料理のご説明

スノー様はミンスパイがお好きとお伺いしましたのでコフィン様とミンスミートにし、復讐と言う血よりも濃い愛で繋がれたお二人の血とミンスミートを一つに混ぜ合わせ濃厚なブラッドソーセージに。やっと会えた二人きりの家族ですので、それを使い英国の定番的な家庭料理、家族水入らずのトードインザホールに焼き上げました。

本来であればこちらは温かいお料理なのですが、フランスの言葉に『復讐は冷まして食べるのがいい』と言うものがあります。その言葉とスノー様の深く氷のように冷たい復讐心から着想を得まして、よく冷やしてからお皿にサーブを致しました。

 

ウォータンドラス家のご子息であるお二人が水の中でお眠りになられていたので、まさしくフロッグインアボグとお見受けしてお料理との相性がとても良いかと……ああ、呼び名がころころと、ややこしく申し訳ございません。こちらのトードインザホールには呼び名が2つありまして、美味しいものであればトードインザホール『穴の中の蛙』と呼び、顔をしかめる様な味のものはフロッグインアボグ『沼の中の蛙』と呼ぶそうです。

さて、お味はいかがでしょうか?

それはそれは……あまりにしつこくねっとりとした濃厚さで喉に張りつくようですか。申し訳ございません、こちらはその名の通りフロッグインアボグに仕上がってしまったようです。

温かい家庭料理であったのならば美味しかったのかも、しれないですね。

 

おや!お皿の仕掛けに気づいていただけるとは、お客様も観察眼が鋭いのですね。

スノードロップを家に持ち込むと不幸を運ぶと言われますが、年越し前のスノードロップは見つけた者に次の年の幸運をもたらすとも言い伝えられております。

お客様の次の年が、良いものになりますようお祈り申し上げております。

 

~ デザート ~

11品目 ダニエル

 

【イートンメス】

 

春と冬の境に降る雪の様にうっすらと桃色をしたメレンゲ

果肉がごろりとした真っ赤なイチゴのソースが絡まり、スプーンを入れる前から甘い香りが漂ってくる

見た目と同様につつけば簡単いヒビが入り砕けるメレンゲを一匙口に含めば、とろりとしたイチゴの甘さ微かな酸味、それに引き立てられ更に甘さを増したメレンゲが口の中でしゅわりしゅわりと溶けて消えていく

あまりの口溶けの良さに食べたのか食べていないのか分からぬまま皿が空に

ただ、口の中に甘い甘い味が残っている

 

 

お料理のご説明

ダニエル様の綺麗な血をメレンゲ生地に少量垂らし美しく淡い春のような桃色にし、三つ編みにされてました御髪の形そのままに絞り出し焼き上げました。その上から、最期に目に飾られていましたごろりとした球根をイメージしたごろりとした赤く甘い苺のソースをかけた優しく儚いデザートでございます。

 

メレンゲ菓子はとても砂糖が多く口にいれるとダニエル様のファミリーネームの通り、まさにコットンキャンディーと同じくしゅわしゅわと口の中で溶け消えていくお菓子ですので名は体を表すとも申しますし、優しく少し脆さがあるダニエル様と味も見た目もピッタリかと思います。

一つ前のお料理であるスノー様を冬、雪とするならば、交友を深めまるで雪が溶けるようにしゅわりと口の中で甘く消えていくダニエル様からは春を連想されますので、コースメニューの並びとしても綺麗でとてもよろしいかと。

 

~ デザート ~

 

12品目 アビゲイル

 

【アビゲイルの魔女ケーキ】

 

フロスティングで下の方まで覆われ生地が見えないホールケーキ

真白な土台の上には香ばしく炒って砕いたオークの実と深い海の様な翠色のリボンのアイシングがワンノットツーノット

食べるとライ麦の香ばしさと卵のふくよかな風味、口の水分を奪う重く密度の高い生地。温かい紅茶で喉を湿らせついつい食べ続けてしまう癖になる味 

 

 

お料理のご説明

コースのお料理はこちらのお皿で最後なのですが、お腹に余裕はございますか?それはよかったです。

素朴で香ばしさの感じるライ麦粉に風味豊かな卵をたっぷりと使いスポンジを焼き、甘く濃厚なクリームのフロスティングをアビゲイル様の視線を遮る長い前髪をイメージして生地の下まで覆った食べ応えのある魔女のケーキに仕上げました。

 

アビゲイル様は『目撃』をされていた事、それを告げた事からセイラム魔女裁判で実際に作られた魔女ケーキに致しました。

実際はこの様に見た目にも華やかなケーキではなく、ライ麦に魔女容疑がかかった者の尿を混ぜ……ここから先は諸説あるのですが、それを犬に食べさせ犬が苦しんだら魔女。犬ではなく本人が苦しんだら魔女。魔女の黒魔術により苦しんでいる人間に食べさせ治療する。様々ですが、なにをしても所謂詰みと言うものなので民衆の正義から逃げられた者は、あまりいなかったようです。

後世ではそのライ麦こそ魔女の犯人、主食にしていたライ麦が植物の病気にかかり気づかずに食べていた村人に集団幻覚や食中毒の様な症状を引き起こしていた、とも言われますが果たして、かのアビゲイル少女が最初に見たものはなんだったのでしょうね。

 

これは、私もつい熱が入ってしまいました。申し訳ございません、お食事にはそぐわないお話でしたね。

……不思議な香りですか?いいえ、恐らく隠し味に混ぜ合わせたビールの香りですよ。こちらは、甘く美味しいケーキですのでご安心ください。

ワンホールは大きいのでカットしてお皿にサーブ致しますね。目安はこちらの結び目のアイシング、何ノットお召し上がりになりますか?

セイラムの魔女裁判で有罪が下された者は村の大きなオークの木に吊るされ、過熱した魔女狩りが終息する頃にはワンノットツーノット……数え切れない結び目を枝々に作っていたようです。

上にアクセントとして散らされているのは、オークの実、どんぐりを炒った物です。イギリス産ですのでこちらもご安心を。

 

これはほんの、そうですね、お伽噺とでも思っていただければ。

儀式を行い悪魔を呼び出したか調べる方法として、妖しげな魔法陣であったり儀式の痕跡であったり、様々な証拠や検証方法があるそうです。その一つに昔から悪魔がいると硫黄の匂いがする、と言われています。卵を濃くしたような、温泉地などでは漂う事もあるかもしれません。

ところで、お客様が先ほど仰られた不思議な香りは、どんな匂いでしたか?

  

これはこれは!失礼、おふざけが過ぎてしまったようです……大丈夫ですか?ケーキが喉につかえたようですね。

今、食後のお茶をお持ち致します。

こちらで、コースは全て終了です。
美味しくお召し上がりくださりありがとうございます。お客様にお喜び頂き、私共も大変嬉しく思います。
ですが、なにぶん今回のコースはお皿の数が少々多かったかと……お体は苦しくありませんか?
ああ、そうです。よろしければ客室でお休みになられてはいかがでしょう?
大丈夫ですよ。お泊りになられていたお客様は皆様丁度チェックアウトなされたので、お部屋は十二分に空いております。
幸運なお客様
どうぞこのまま、ごゆっくりと、お過ごしください。